島崎藤村、泉鏡花、有島武郎、樋口一葉、内田百閨A津田梅子、与謝野晶子、滝廉太郎、三浦環、武者小路実篤、中村吉右衛門など、百数十人にのぼる著名人・文化人たちが、かつてこのまちに住んでいました。それらの人物を通して、私たちのまちとのかかわりや業績を紹介します。
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貧しさと闘いながら、身を張って生きてきた伝法肌のお力は、今でいうヤンキー娘。知性も豊かな感受性もあり、根が善き女ながら、どこか脆いところがあり、神経を消耗してしまうという破滅的な女だ。男女模様を描いた作品だが、どこかにこの貧しさを生んだ社会に対する批評の目が光っている。一葉がもし、現代に生きていたら、現代の貧困にあえぐ、若い女子を主人公に短編を書いただろう。「お力」を彼女らの原型として読むこともできそうだ。そのお力が登場する「にごりえ」の世界を少し歩いてみよう。
お力の働く「銘酒屋」というのは、当時、酒肴の提供に加えて売春なども行われていたらしい。お力に配されたのは二人の男。一人は長く馴染みだった源七。女房も子供もいて、かつては蒲団屋の主人だった。今は落ちぶれて土方の手伝いをしている。もう一人は、ある日、客としてふらりと通りかかり、お力につかまった結城朝之助。洗練された粋人で、金銭的にも精神的にも余裕があって、お力の身の上話にじっくり耳を傾けてくれる。書かれてはいないが、お力とは当然、男女の関係があるだろう。だが結局、結城はお力とは違う階級の男、一緒になろうという相手ではない。二人もそれを承知している。
だから腐れ縁として通じあっているのは、口ではあしざまにけなしつけている源七の方なのだと思う。けれどお力と源七が結ばれるという結末も、おそらく誰にも、考えられていない。どこまでもお力は孤独である。孤独といえば、源七の女房・お初も同じ。夫をなんとか改心させたく、お力に激しく嫉妬するが、源七をなじって喧嘩になって、そしてついに、息子太吉を連れて家を出ていく。